森の声をきく #09

1|序章:手稲の現場で
今回の取材は、三菱マテリアルの社有林がある手稲で行った。
平岡さんはここ数年、手稲や白老と早来などの現場を継続して担当している。
当会の自伐型林業研修に参加し、
大西林業や奈良での現場にも入りながら経験を積んだ。
その延長で、三菱×協議会の手稲モデル施業にも参加し、
現在の基礎が形づくられていった。
まずは、ここに至るまでの経緯と、現在の仕事について話を聞いた。
2|食品会社から島牧へ ― 協力隊で農業支援に入る
平岡さんは札幌出身。
食品会社で働いていたが、倒産をきっかけに「農業や暮らしに関わる仕事」を考えるようになり、島牧村の地域おこし協力隊に応募した。
配属は“農業支援”だった。
農家の手伝いをしながら米づくりを学び、今も島牧で稲作を続けている。
農家の人たちは多面的機能発揮交付金を使って山に入り、間伐などの作業も行っていた。
その手伝いをしたことが、山との最初の接点だった。
3|自伐型林業との出会い ― “これに決めた”という瞬間
協力隊の期間中、札幌で開催されていた当協議会のフォーラムに参加し、そこで初めて「自伐型林業」という考え方を知った。
「面白そうだし、学び続けられそうだ。よし、これに決めた」
そう思ったのが、林業を続ける決意につながったという。
その後、手稲で行われた当会が例年開催している里山カレッジに参加、
清光林業のレジェンド 岡橋清隆さん の奈良の現場でも施業技術に触れた。
4|手稲で始まったモデル林施業 ― 三菱×協議会
平岡さんが経験を積み始めた時期、
三菱マテリアルが所有する手稲山の社有林で、
当協議会と連携した「モデル施業・人材育成」の3年間の企画が動いていた。
作業道の線形は、岡橋清隆さんと協議会メンバーで現地を歩いて決めた。
現場リーダーは筆者。
札幌周辺や全道各地から複数名が通い、
平岡さんもそのひとりとして作業に入った。
この3年間の現場で学んだメンバーは、のちに、
道内各地で“自伐型林業のキーマン”として活動するようになった。
またこの施業地は2023年、
30by30の達成に寄与する OECM(Other Effective area-based Conservation Measures)自然環境サイト
として登録された。
5|現場で学び続けた数年間 ― 大西林業・奈良での道づけ
協力隊後半からは、冬場は白老の大西林業に通い、
奈良では岡橋さんの現場で道づくりを学ぶなど、さまざまな現場を経験した。
「どこかに就職するというより、いろんな現場で学びながら、自分に合う形を探していた感じでした」
この期間に、重機の操作、伐倒、選木などの基礎技術を身につけていった。
6|現在 ― 三菱社有林の施業を中心に、年間10ヘクタール規模を担当
協力隊の任期が終わるタイミングで、
当協議会が三菱マテリアルと調整し、平岡さんたちが施業を受託する流れを整えた。
そこから現在までの4〜5年間、
平岡さんは三菱社有林の施業を継続して担当している。
毎年の施業サイクルは次のとおり。
- 3〜5ヘクタール × 2現場
- 場所は 札幌(手稲)や白老、 早来など
- 作業道造成は 1200〜1800m 程度
- 冬に、全体の2割ほどを間伐
「年によっては年度末ぎりぎりまで伐っていました」
現在は2人体制で現場を回しているとのこと。
7|自伐型林業のスタイル ― 選木と“抜き伐り”の丁寧さ
平岡さんの施業は、自伐型林業の基本である“小規模・低コスト機械”を中心に行う。
- 2.5m幅の作業道
- バックフォー
- 小型フォワーダ(ヤマビコ)
これらを使い、抜き伐りを丁寧に進める。
「良い木を残す」「将来の森を育てる」という思想で選木を行うが、
山主の意向で“伐って収益を出すべき木”との調整も必要だ。
丁寧に選木して抜き切るため、
木を傷つけない伐倒や、社有林で求められる技術が必要になる。
とくに広葉樹は枝ぶりが大きく、慎重さが欠かせない。
そのぶん手間はかかる。
8|技術と向き合う姿勢
平岡さんが現場で感じているのは、
自分たちの技術をもっと良くしたいという思いだ。
基本的に2人で道づけから伐倒、集材までを行うため、
一つひとつの判断や段取りが作業全体の流れを左右する。
「もっと上手くなりたいですね」
と平岡さんは静かに言う。
派手な口ぶりではないが、
その言葉には、丁寧な作業を積み重ねてきた人ならではの、
純粋な技術への向上心がにじむ。
たとえば、
- 道づけの精度をさらに高めること
- 木を傷つけずに抜き切るための伐倒の工夫
- 少人数でも効率よく動ける段取りの組み方
- 機械の動線の最適化
現場を続けているほど、
「もっと良くできる余地」は具体的に見えてくる。
大きく構えるわけでもなく、
誰かに誇示するわけでもなく、
ただ淡々と、次の現場での改善点を考える。
その姿勢には、
穏やかな性格の奥にある職人気質が感じられる。
9|薪づくりと材の出口づくり ― 栗材が板になった話
島牧時代から続けている薪仕事は今も継続中だ。
現場から購入引取りした丸太の処理を、時間を見ながら進めている。
作業場所は、三菱が貸してくれた「かっこうの森キャンプ場」の近く。
昨年、白老の現場で出たクリ材を、
厚真で製材を営む中川さんが20本ほど買い取ってくれた。
曲がった太い木も含まれていたが、「これも買うよ」と言ってくれた。
後日、製材された板の写真を見せてもらい、
「こういう形で活かしてもらえるのは、小規模だからこそだと思いましたし、励みになった」と平岡さん。
10|“とりあえず行く”というスタンス
平岡さんは人前で多くを語るタイプではないが、
現場への足は軽い。
「深く考える前に、とりあえず行ってみる。行けばなんとかなるかなという感じでした」
それが結果として経験とつながりを生み、
現在の施業へとつながっていった。
11|今後の施業規模と、仲間づくり
今後は、年間の現場規模を少しずつ拡大し、
仲間も増やしながら、継続的に仕事が回る体制を整えていきたいと考えている。
これまでの現場では、
少人数ながら協力し合いながら現場を進めてきた。
「北海道内には、自分と同じようなきっかけで林業を始めた人や、
これから始めようとしている人がいます。
そういう人に仕事を渡せるような体制が作れたらいいですね」
と平岡さんは話す。
今期は KX-57(小型のグラップル付きバックホー) を導入し、
選択できる施業方法の幅が広がりつつある。
※補足:自伐型林業における施業規模の可能性について
筆者は、自伐型林業の施業規模の最大値については、
技術が身についた3人以上の体制で、作業道の規格で使えるサイズのバックホー・グラップル・フォワーダーを組み合わせて施業を進めた場合、
「条件が整えば年間50ヘクタール程度も可能ではないか」という見立てもある。
12|終わりに
派手ではないが、確実に積み重ねてきた人。
三菱の社有林を継続して任されているのは、その積み重ねの結果でもある。
自伐型林業の現場で静かに実践を続けるプレーヤーが、ここにいる。
構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」