森の声をきく #10

■ 川合英之さん(かわい・ひでゆき)
三菱マテリアル株式会社 サステナビリティ推進部 環境保全センター 森林管理室 室長補佐 札幌近郊の自宅では薪ストーブをたき、家族とピザを焼く時間を楽しむ。 休日には苫東コモンズで自らチェーンソーを握り木を倒すこともある。 企業の森づくりと現場感覚の“両側に触れている存在”。
1|企業の森づくり ― 人工林と恒続林という二つの軸
三菱マテリアルは全国で約13,000haの社有林を管理し、
そのうち約1万haが北海道に広がっている。
企業としての森づくりは、大きく二つの方向性で進む。
① 人工林を長伐期で育てる森づくり
植えて・育てて・収穫し、最低80年以上のサイクルで循環させる。
② 天然林(恒続林)的な森づくり
階層構造が発達し、
成熟した上層木が更新されていくことで自然に循環する森。
この施業で大切になるのは、
「壊しすぎないこと」と「よりよく自立していくように構造を整えること」。
伐採効率だけを考えれば大型機械が有利だが、
恒続林のような複雑かつ繊細な森づくりの施業では、
丁寧で小規模な技術が必要になる場面が少なくない。
そこに自伐型林業の持つ技術がしっくりと合う。
2|当協議会との接点 ― 人が育つ“舞台”となった森
2019年、当協議会の広葉樹部会の研修では、
三菱マテリアルの社有林を“舞台”として、
多くの若い担い手が実地で技術を身につけた。
そのメンバーの多くが今も現場で活躍している。
川合さんは、その成果をこう語る。
「思いを持って丁寧にやる人が、現場で腕を磨けたのは良かったです。
フィールドがあるのは大きいですよね。」
企業側にとっても、
丁寧に森を見る人材が育つことは大きなメリットだった。
さらに、この施業を含む社有林の一部は、
2023年に「自然共生サイト(OECM)」として登録。
丁寧な施業と生物多様性の価値が、制度的にも認められた。
3|自伐型林業の価値は“心持ち”と“技術”にある
川合さんは、自伐型を、
“心持ちと技術のセット” として理解している。
「最大の特徴は、自分の山をやるような心持ちと、
小規模で丁寧に施業できるシステムを持っていること。
恒続林づくりと相性が良いのはそこだと思います。」
また、自伐型が持つ“山主”の印象についても触れた。
“自伐型=山主”という固定化した印象の側面の一つを超え、
「丁寧な森づくり」という本質が広がるべきだ
という意見だった。
形ではなく“施業の質”が大切だという視点だ。

4|制度のあり方の更新次第で、森づくりの質は大きく変わる
北海道の定める造林補助の枠内では、
小規模で丁寧な作業道づくりが十分に評価されない。
大規模土工を前提とした単価体系が基準となっているためだ。
これは自伐型の担い手にとっても、企業にとっても大きな壁になる。
川合さんは率直に語る。
「札幌市のように丁寧な道づくりに対して手厚く補助を出してくれる自治体もありますが、
今の北海道の制度のままだとどうしても赤字幅が大きくなるんです。制度が整えば、選択肢として一気に魅力的になるはずです。」
制度のあり方の更新次第で、 “選べる森づくり”の幅は大きく変わる。
5|企業と担い手が横に並ぶ未来へ
技術のある若手が増え、
企業側も丁寧な施業の必要性を理解している。
あとは、制度がそこに追いつくこと。
川合さんは、企業として自治体に働きかける場面もあると話す。
「シナジーはあると思います。」
企業が単独で言うより、
現場の担い手の声と重ねて伝えることで説得力は増す。
企業 × 現場プレイヤー × 協議会
が横に並び、制度改善を求める未来は、
以前よりもずっと現実味を帯びている。
6|名前より“本質”が広がる時代へ
取材の終わりに、川合さんはこう言った。
「自伐型の定義も、もう少し柔軟でいいのかもしれません。
要は丁寧な森づくりができるかどうか、ですよね。」
自伐型が積み重ねてきた価値を尊重しながら、
その本質を社会に広げていく段階に入っている。
よりよく自立していく森の構造を整え、
壊しすぎず、時間の循環を大切にする技術。
その技術が広がれば、
制度も、森の未来も、ゆっくりと変わり始める。

■ おわりに
三菱マテリアルという企業の森づくりと、
自伐型林業の小さな技術。
両者の間にあるのは、対立ではなく
選択肢の幅を広げる可能性だった。
制度の更新が進めば、森づくりの質が変わる。
森が変われば、地域の未来も変わる。
川合さんの言葉には、その方向への静かな確信がにじんでいた。
三菱マテリアルの森のインスタグラムはこちら▼
マテリアルの森|三菱マテリアル公式( @materials_forest )
構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」