自伐型林業が“普通のこと”になる未来へ
森の声をきく #11

1|薪ストーブが最初の“扉”だった
薪ストーブを入れたのが、すべての始まりでした。
岩見沢の住宅地に暮らしていた頃。
中野さん夫妻は、薪ストーブを導入した。
燃える薪の匂い、ゆっくりと広がる暖かさ。
火を眺めるだけで心がほどけていく。
けれど──薪の入手は簡単ではなかった。
伐採地に積まれた丸太を“タダで持っていっていいよ”と言われた年もあれば、全く当てがない年もある。
知り合いの倉庫に眠っている薪を譲ってもらったこともあった。
そんな暮らしのなかで、ふとした思いがこみ上げてくる。
「安定して薪を確保したい。
自分の手でどうにかできないだろうか。」
その思いに背中を押され、
中野さんは初めて森林組合に電話をかけた。
かける前が一番ドキドキしたんです。
“何を言ってるんだこの人”と思われるんじゃないかって。」
返ってきたのは、思いがけない言葉だった。
探してみましょう。いくつか紹介できる場所がありますよ。
──この一本の電話から、中野さんの新しい人生が動き始めた。

2|笹を刈り進めた──最初の頃の山づくり
森林組合に紹介された山のひとつが、現在の場所だった。
岩見沢郊外の7haの山林。
最初は、笹に覆われた森林。
道もなければ、開けた場所もない。
けれど、なぜか惹かれるものがあった。
最初は薪を取る場所くらいのつもりだったんです。
仕事をしながら、森へ通い、
笹刈りや薪の切り出しを続けて数年。
雪の日はソリに薪を積んで運び、
勢いでソリが壊れたこともある。壮絶だったと笑いながら語る。
作っては雪で潰れる薪棚を、毎年のように作り直した。
苦労の連続なのに、不思議と嫌にならなかった。
楽しいんですよ。
静かだが揺るがない“バイタリティ”が、中野さんの背中を押していた。

3|気がつけば、ここに家を建てたくなった
笹刈りを続けるうち、森の奥に少し開けた場所があった。
空がぽっかりと見え、風が通る。
そこだけ、森の温度が違った。
ここに住めたらいいね。
冗談のように言った言葉が、やがて現実へ変わっていく。
最初は仮の小屋のつもりだった。
だが山のカラマツを見て、
“この木で家を作れないか”と思い始める。
デッキの木、手すり、階段、天井の羽目板──
この家のあちこちに、この山の木が使われている。
皮むきは二人で。
大工さんに習いながら、自分たちの手で仕上げた。
住みながら少しずつ作って、全部で4〜5年かかりました。
暮らしの延長線上で“育てた家”。
その分だけ、深い愛着が宿っている。

4|仕事を辞め、里山カレッジへ
中野さんの
山への気持ちは年々強まっていく。
中野さんは、ついに決断する。
山のことにもっと時間を使いたい。
62歳で仕事を辞め、
長年気になっていた当協議会の“里山カレッジ”へ。
「若い人の邪魔にならないかな」と心配していたが、
実際にはすぐに馴染んだ。
若者のバイタリティに感心しながらも、
中野さんの静かな情熱も同じくらい強かった。
本当に勉強になりました。まだまだ学びたいと思っています。
新しい学びは、驚くほど軽やかだった。
5|自伐型林業の実践 ― 広葉樹林で始まった“もうひとつの暮らし”
中野さんが所有する約7haの広葉樹林で、
今年ついに“自伐型林業”が本格的に動き始めた。
長年、薪を切り出すために通い詰めた森。
だが、そこには道がなく、
その森に、秋口、念願の作業道が完成した。
本格的な搬出は来年以降になるが、
道が一本入るだけで、森との距離は劇的に縮まる。
革命的ですよ、本当に
来年、実際に間伐して軽トラで搬出したら、
これまでの苦労とは全然違うときっと感じるだろう。
自伐型林業を続けてきた澤田から見ても、それは確信に近い。
道があることで、
- 間伐した木をその日のうちに運べる
- 薪用の丸太も効率よく車両で搬出できる
- 必要なときに必要な分を作業できる
“暮らしに寄り添う林業”が、いよいよここから本格化する。
森はこれから、ゆっくりと、確実に良くなっていく。
混み合った樹幹も少しずつ間隔を調整して、
ミズナラやカエデがもう一段太れる環境が生まれる。

6|生活者としての視点で見る“自伐型林業の未来”
自伐型林業の研修に通い、
仲間との出会いに勇気をもらい、
「自分も続けていきたい」と素直に思えた中野さん。
その穏やかな眼差しと行動力こそが、
これからの林業のあり方の一つとして支えていく。
自伐型林業が“普通のこと”になればいいなと。
山に手を入れる人が増えれば、森はもっと良くなるから。
大規模に伐り、大規模に植えるだけの時代ではない。
“必要な分だけ、丁寧に使いながら育てる林業” が広がる未来を思い描いている。
里山を丁寧に扱う中野さんのような存在が増えれば、
地域の森林は確実に変わる。
中野さん自身は謙遜するが、
山を買い、作業道を入れ、
暮らしのために森と向き合う姿は、
“バイタリティのある生活者”そのものだ。
7|山とともにある豊かさ ― 暮らしの選択肢としての自伐型林業
振り返れば、すべては──
薪ストーブに魅せられたことから始まった。
薪を自分で確保したい。
その思いでたどり着いた岩見沢の森は、
いまでは暮らしの中心にある。
小屋づくりの材料を山から伐り、
手すりやデッキはこの山のカラマツでつくった。
薪棚は改良を重ねて“倒れない形”に進化した。
裏庭には家庭菜園。
秋には原木キノコ。
薪で直火のコーヒーを自家焙煎する。
「もう普通のコーヒーには戻れないですよ」と笑う。
それは、
森の手触りが暮らしの手触りになるような、
ゆっくりとした豊かさだ。
暮らしをさらに自然と共にシフトさせることができる。
小さな里山でも、守れるものがある。
山仕事は“誰かの職業”である前に、
“自分の暮らしの一部”になり得る。
中野さんのように、
“暮らしの選択肢としての自伐型林業” が静かに広がり始めている。

構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」