木と生き物を愛し、森の楽しみ方をひらく ─森林科学から木育×広報へ広がる、中野百合華さん

2026年5月4日

森の声をきく #15

森のすべてを「生き物」として見つめる視線。

その中の一匹のカエルから、木の質感や木工の面白さへと世界が広がり、
気づけば製材所・クラフト・木育・広報へと軽やかに越境している。

三津橋産業で働きながら、ウイスキーや木くず粘土など “遊び” のセンスで
森と人の距離をぐっと近づけている中野百合華さん。

彼女の歩みはまるで、森そのものの多様性がそのまま形になったようだ。

1|森全体をひとつの生命として見る

カエルから始まった “マクロな森” へのまなざし

幼いころから両生類・爬虫類が好きだった中野さん。
北海道大学では「カエルの研究」を起点にしつつ、
森林科学科で 森全体をマクロに捉える学び に惹かれていった。

生物の一部分を見るより、森全体の中の生き物として見たいと思ったんです

(森林科学科を選んだ理由)

森の実習や研究林での時間を通して、
“森はつながりの集合体” という視点が育ち、
後の木育や木工の感性にも自然につながっていく。

2|木材の現場で生きた、“生態の視点”

森林科学 → 製材の現場へ

士別の木材会社・三津橋産業に入社した中野さんは、
ミズナラ・タモ・ニレ・カバ、そしてトドマツの製材に触れながら、
森で学んだ“マクロな捉え方”が木材にもつながることに気づいた。
樹種ごとに異なる質感、香り、クセ。
その背景にある「生きてきた森の時間」までもが感じられる。
広報の仕事は狙っていたわけではないが、
発信を続けるうちに会社の印象も確実に変化していく。

ホームページやSNSの印象を少し変えるだけで、反応って違うなと思って
知らない人も多かった会社を、“あ、あの会社” と知ってもらえるようになりました

製材という“産業の現場”と、
日常の暮らしや人々をやわらかくつなぐ役割が、
彼女の中で自然に育ち始めていた。

3|絵が好きで、手を動かすのが好き

木くず粘土、ウイスキー、木工へと広がる創造性

中野さんはもともと 絵を描くことが好き
その感性が、会社で出会った「木くず」と結びつき、
森の多様性をそのまま遊びに変えるような作品が次々生まれた。

  • 木くずを自分で配合して作る「木くず粘土」
  • 広葉樹チップを使ったウイスキーの風味比べ
  • 刃物を使わない、誰でも楽しめる木工ワークショップ

木くずがあるし、できそうと思ってやってみたらうまくいって
針葉樹と広葉樹で水分の吸収が違って、質感も変わるんです

ウイスキーのチップも、完全に“遊び”から始まった。

最近ハマってて。樹種ごとに味や香りが変わるのがおもしろくて

“好きだから試す”。
この軽やかな創造性は、気づけば木育や広報の活動にも息づき、
彼女の「伝える力」そのものになっている。

4|自伐型林業との接点

“木を消費しない森づくり” への憧れ

清水省吾さんのフィールドに触れたことで、
中野さんの“森への入り方”はまたひとつ深まった。

ああいう、木材生産を主としない森の使い方がすごくいいなと思って
一本一本の木に寄り添ってる感じがあって、すごく惹かれます

玉切りやチェーンソーの講習にも参加しながら、
「いつか自分の森を持ちたい」という理想も静かに育っている。
森林科学でのマクロな視点、
製材で体得した木の時間、
クラフトで磨かれた創造性──
それらがゆっくりと結びついていく。

◎ 結び|森の多様性そのもののように

カエルが好きだったこと。
森を生態系として見たいと思ったこと。
絵を描くこと、手を動かすことが好きだったこと。
製材所で感じた木の個性。
木くず粘土やウイスキーの小さな実験。
木育の現場で子どもたちと向き合う時間。

それらの線が交わって、
中野百合華さんという“森のひらき手”が形づくられている。
専門家としてというより、
「好きで動く」ことがそのまま森と人をつなぐ力になっている
その軽やかさが、これからの森の世界に新しい風を運んでいく。


構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)

制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer

助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」

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