森の声をきく #14

札幌市の森づくりにおいて、近年もっとも画期的だったのが、
小規模林業・継続管理にも使える札幌市独自の補助制度である。
制度を一から構築し、都市部の民有林の実情に即した“札幌モデル”へと丁寧に仕上げる一助を担ったのが、
みどりの管理課・森林計画担当係長の 石堂 光さんだ。
石堂さんは、令和元年度から4年度まで、経済観光局農政部農政課に在籍し、里山地域の活性化を推進する事業を担当していた。
その時に、里山の森林整備をすすめる立場から、林務を所管する現在のみどりの管理課と協力し、補助制度の設計に携わっていた。
制度づくりは、単なる紙の上の仕事ではない。
全国の制度、札幌市の森林構造、市民利用の実態、都市近郊林の特性、そして現場の声。
複数の要素を一つの制度に統合する行政の仕事には、静かだが大きな敬意がある。
ここでは、この制度がどのように生まれ、
なぜ北海道の未来を変える可能性をもつのかを紐解いていく。
1|森林経営管理法の施行が「都市の森の課題」を明らかにし、小別沢の地域企画が“都市近郊林の現実”を照らし出した
札幌市が独自制度の構築を検討し始めた契機は、
平成31年の森林経営管理法の施行だった。
この法律は、市町村が森林所有者の意向を踏まえ、
森の集約化・適切な管理を進めるための枠組みを提供するものだ。
しかし札幌市の民有林の状況や、対応する国や道の補助制度は、
- 人工林の林齢が高く、国の補助対象に乗りにくい
- 一律の間伐率要件が都市部の環境に配慮した施業手法に適合しない
- 手続きと検査が煩雑
- 作業道の補助単価は“数百円レベル”で丁寧な道づくりには見合わない
という構造問題を抱えていた。
つまり、国や北海道の制度だけでは
札幌市の森は動かない ことが明らかになった。
地域企画「小別沢」が浮かび上がらせた、都市近郊林の根源的課題
同じ頃、西区・小別沢では
農地と森林を一体にとらえ、地域の魅力を引き出す企画(里山活性化推進事業)
が進められていた。
しかし、山林整備に取り組もうとしたところ、
都市近郊林ならではの課題が明確になった。
- 所有者が山に入らない/入れない
- 山に入るためには“作業道”が基盤
- 作業道づくり自体は利益を生まないため、補助制度が必要
- しかし補助単価が低く、丁寧な作業道はつくれない
- 大型皆伐モデルは里山地域の景観・生活環境と整合しない
都市近郊林は、山村部等の奥山とは異なり、
景観・生活圏・農地・防災・市民利用など多様な条件に配慮して施業する必要がある。
この経験も含め、行政として改めて認識されたのは、
インフラ整備ともいえる作業道補助を現実に合わせて改善しなければ
都市近郊の森は管理できない。
という、基本だが見過ごされがちな事実だった。
小別沢で得られた気づきも、
制度を現実に即したものへ整えるための大切な一要素となった。

2|札幌市の条件に適合するのは“都市近郊型の継続管理モデル”
札幌市の民有林は、山村部とは大きく異なる条件を持つ。
- 約200万人が住む大都市のすぐ側
- 多くの人にとって、森林は利用ではなく保全の対象
- 所有者ですら山を利用しない、関心をもたない状況が一般化
- 農地・住宅地・森林が互いに近接し、関係性が深い
- 景観・防災・市民利用など、多様な価値への配慮を同時に求められる
- 大規模皆伐が地形・社会的要請に適合しにくい
これらを分析した結果浮かび上がったのは、
都市近郊林の持続的管理には、 小規模で丁寧に、継続して人が森へ入れるような、環境への配慮を重視した体系が不可欠である。
という、ごくシンプルだが本質的な要件だった。
他都市の事例を探したところ、特に 高知・岐阜・福井 等が独自の補助制度を設けていて、
札幌市が目指す都市近郊林の整備推進の考えに近かった。
そしてこの要件と整合していたのが、
自伐型林業の現場で長年培われてきた
- 壊れない作業道
- 択伐を基準とした連続施業
という技術体系だった。
重要なのは、
札幌市が、都市近郊林の必要条件を突き詰めた結果、
方法論として自伐型林業の技術体系と一致した。
という事実である。
制度は特定の事業者のためではなく、
都市の森の条件から論理的に導かれたものだ。
3|核心:壊れない作業道を“制度として高く評価した”北海道でも先進的な自治体
札幌市制度の最大の革新は、
作業道の積算を“現場が必要とする仕様”から逆算した 点にある。
一般的な自治体では、
- 半切り・半盛りを標準とする設計
- 長期利用に耐えない仕様
- 低い補助単価
という課題が存在した。
札幌市はここに正面から向き合った。
- 北海道の作業道設計基準を採用
- 設計基準で任意扱いの全切り・全盛り(地山の掘り起こし・締固め)を 必須仕様 に格上げ
- 全切り・全盛りの断面図に基づいて必要土工量を算出
- 作業道の幅に合わせた小型重機の単価を採用
- 壊れない作業道に必要な適正単価を設定
このアプローチは、
自伐型林業の核である
壊れない作業道による長伐期・択伐施業を
高く評価し、補助制度を通じて積極的に支援した、北海道内の自治体として先進的な取組であることを意味する。
実際に筆者や平岡さんがこの制度を利用して札幌市で施業した際、
丁寧な作業道を赤字なく作れる という実効性が確認できた。
4|所有者の意向を尊重し、“選べる林業”を開く札幌市
札幌市制度は、
- 所有者の意向を最優先
- 市が抱え込まず、適切な担い手へ繋ぐ
- 継続的な小規模施業の選択肢を確保
- 皆伐再造林に一択化しない
という姿勢で一貫している。
特に重要なのは、
施業の選択肢が制度として確保されている点 である。
景観保全・農地保護・市民利用など、
都市近郊ならではの多様なニーズに対応しうる構造になっている。
5|札幌市は“全国の森林管理のモデル都市”になり得る
札幌市には現在、
- 制度(札幌型独自補助)
- 担い手(私たちの仲間を含む小規模施業者)
- 所有者の明確なニーズ
という三つが揃っている。
さらに、
この制度を利用した三菱マテリアルの山林施業は、OECM登録を果たした。
制度が正しく運用されれば、
経済性と環境性を両立した森づくりが可能であることを示す象徴的な事例だ。
札幌市は、
都市近郊林の管理モデルとして全国に先駆ける可能性 を持っている。
6|今、北海道で最も制度が整っているのは“札幌市”である
札幌市制度は、
- 壊れない作業道を制度として評価
- 施業を“選べる”構造
- 所有者の意向を尊重
- 都市近郊林に対応した補助設計
- 全国事例を踏まえた論理的制度設計
- 景観・防災・市民利用にも寄与
という点で、
北海道内でもっとも制度が整っている自治体 と言える。
7|この制度が広がれば、北海道の森は確実に変わる
札幌市の制度は、他自治体でも応用可能な“基礎モデル”となる。
- 森林環境譲与税と親和性が高く
- 小規模施業者にも対応し
- 作業道というボトルネックを解消し
- 施業の選択肢を広げ
- 景観・防災・に寄与する
これにより、
皆伐再造林一択の施業から、選択肢のある森づくりへ移行できる。
札幌市制度は、
一自治体の施策にとどまらず、
北海道の森林管理の未来を変え得る制度 である。
最後に、この制度を現場と行政のあいだで丁寧に編み上げてきた
石堂さんの静かな仕事 に、深い敬意を表したい。

構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」