森の声をきく #12

夜の森の奥で、ぱちぱちと焚き火がはぜる。
清水省吾さんが主催する「炎上キャンプ」は、山仕事で出た端材で焚き火を囲み、木を切る以外は好きにしてという、ゆるい集まりだ。この日に取材を行った。
けれどその火の輪には、肩書きを超えてさまざまな人が集まり、思い思いの時間を過ごしていく。
旭川で里山部を主宰し、北海道自伐型林業推進協議会の副代表でもある清水さんは、「森ってね、人と人をつなぐ“ハブ”なんだよ」と笑う。
生き物を守りたくて森づくりは、いつしか地域の交流拠点になった。
そしてその輪から、自伐型林業の広がりと、次世代へつなぐ森づくりが始まっていく。

1|生き物を守るために、林業から変えたかった
大きなきっかけは、「生き物を守りたい」という思いだった、と清水さんは振り返る。
20代の頃に感じたのは、産業一辺倒で進む林業への違和感だった。
開発は進む。しかし植樹は追いつかない。人工林は増え、森の多様性は削られていく。
本当は、生き物に支えられて林業は成り立っているはずなのに、林業側が生態系への配慮をほとんどしていなかった
さらにもうひとつの問題は、“山主の無関心”だった。
山を持っているのは多くが高齢世代で、手入れはされず、不要になれば売られてしまう。
自然が次の世代につながらなければ、地域の産業は衰退し、田舎で生きる選択肢が消えてしまう。
だからこそ、清水さんは思った。
産業だけでも、生態系だけでもダメ。バランスの取れた林業をやらないと未来がつくれない
そのための「モデル」を自分で持とうと思い、11年前に放置林を買った。
それがすべての始まりだった。

2|一人でやるのはもったいない。だから、人を呼んだ
購入した山は、35年ほど手入れされていなかった。
倒木が折り重なり、歩くにも一苦労。最初の数年は薪づくりからスタートした。
「でもね、一人でやってると、感動も大変さも誰とも共有できない。
それが、すごく“もったいない”と思ったんだよね」
森がきれいになっていく様子。
ナラの木肌の香り。
森の中で食べるカップラーメンの美味しさ。
焚き火のあたたかさ。
そのすべてが、誰かと分かち合いたい体験だった。
それが、里山部の活動の原点になった。
3|森はハブだ。出会いが出会いを連れてくる
炎上キャンプの夜の輪を眺めて思う。
清水さんには、いつも人をつなぐ力がある。
今は企業の森の整備、自治体との協働、特殊伐採の依頼…
営業して仕事が広がったわけじゃなくて、森に人を呼んだから仕事が広がった
里山部を訪れた人が、「実は山を持っていて…」と相談してくる。
誰かが友人を連れてくる。
初対面同士が意気投合し、次の企画が生まれる。
森が“ハブ”になり、自然に人が集い、勝手につながっていく。
次世代につなぐためには、人が山を守り、出会いが連鎖する構造が必要なんだよね
そのために不可欠なのが、“安全に入れる空間づくり”。
道をつくり、危険な木を処理し、森の中に安心して入れる入口を整える。
これこそ、自伐型林業の技術が最も生きる部分だ。

4|地域ごとに、森の使い方は違う
自伐型林業が持つ“適応力”
清水さんは言う。
「林業って、本当は“幅広い”んだよ」
例えば旭川のように家具産業の強い地域では、一本の木の価値が高い。
十勝ではまた別の形が生まれる。
薪として、クラフトとして、アートとして、あるいは幼稚園の森として。
森の使い方はたくさんにある。
「空間利用も含めて“林業”だとしたら、自伐型林業は、自分たちの地域に合わせてやり方を変えられる柔軟性がある」
だからこそ“地域の森”に最適化しやすい。
道内各地に実践者キーマンが増え、成功事例をシェアし合える今、
参入しやすさも昔より格段に上がった。
チェーンソーと軽トラで始められるって、やっぱり大きいよね
5|ブームで終わらせないために
協議会が担うべき“次世代への応援”
自伐型林業が広がり始めた今、北海道全体の森林からすると、実践されているのはまだごく一部だ。
「だからこそ、僕らの代で終わらせちゃダメ。次につなげないといけない」
必要なのは、実践者を増やし、技術を伝え、地域に根づかせる“応援”だ。
- 安全・技術講習の継続
- 北海道の「自伐サミット」や定例会
- 道北・道東・道南を巡る全道キャラバン型のフォーラム
- 町有林を歩く実地フィールドワーク
- 森林組合には相談しにくい層の“最後の砦”としての役割
困ってる地域に飛び込めば、僕らが解決できることは山ほどある。柔軟に動けるのが、僕らの強みなんだと思う
6|森で“ほっとしてもらう”ための気配り
清水さんの周りに自然と人が集まる理由は、技術や経験だけではない。
「僕も最初は素人だったから、素人の意見を大事にしてる」
「ヘビが怖いんです」と言われたら、
「何言ってんの」と突き放すのではなく、一緒に怖がる。
「そうですよね」と共感する。
森に来る人のほとんどは、森の経験がない。
だからこそ、ほっとする雰囲気をつくることが大事だと清水さんは言う。
「木も人も同じ“生き物”だと思ってる」
その生き物たちが、森の中で自然につながれるように。
イベントでは若い人に講師を任せ、活躍する場をつくり、その人に新しい自信を芽生えさせる。
それがまた、次の“森と関わる人”を生む。

7|森を難しくしない。生活の中に木を取り入れるだけでいい
最後に、「この記事を読む人へ何か伝えたいことは?」と尋ねると、
清水さんは少し間を置いて、静かにこう話した。
森ってね、思っている以上に身近なものなんだよ。
全部、森じゃなくていい。木のスプーンひとつでも、林業だと思うんだ
暮らしのどこかに、木を感じる選択をすること。
それだけで充分、森とつながる入口になる。
その小さな一歩が、北海道の自然に興味を持つきっかけになり、
やがては森を未来へつなぐ大切な力にもなる。
そう話す清水さんの言葉には、押しつけがましさがない。
森への“愛”や“正解”をひとつに縛るのではなく、
人それぞれの距離感や怖さ、不安やとまどいを、まるごと肯定するようなやわらかさがある。
初めて山に入る人に寄り添い、
「大丈夫だよ」と静かに背中を押してくれるような存在感。
木も人も、同じ“生き物”として見つめるまなざし。
その人柄こそが、
里山部という緩やかなコミュニティを育て、
初対面の人同士が安心してつながれる“森のハブ”をつくりあげてきたのだと感じる。
森は難しくない。
清水さんは、その事実を自分の生き方そのもので示している。
構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」