北海道のしいたけ生産において欠かせないのはミズナラ等から採材するホダ木だ。
年々、その生産量が減少する中で、道南の函館市を中心に天然林間伐によるホダ木生産の輪が拡がっている。
環境保全と効率的な経営を両立させるこの事業を道南で実践している2つのグループに話を聞いた。
道南でホダ木生産が活発化するきっかけとなったキーマンは函館市で建築業を経営する中川かおりさん、目黒さおりさん姉妹。
兼ねてから木を扱う仕事に携わっている事から木育の普及活動も行っている。自伐型林業を学んだのは2018年に当会が主催した「自伐型林業家養成塾」。
本業の建築業と副業としての相性の良さに共感した二人は道南地方でも自伐型林業を広めようと2019年「道南森づくりの会」を発足。
函館市で自伐型林業に関するフォーラムや林業塾等も企画し大勢の森づくりメンバーを獲得することに成功した。
「道南森づくりの会」では七飯町の森林所有者から山林を借り受け「森林山村多面的機能発揮対策交付金」を活用した整備を行っている。
借り受けた森林はしいたけ栽培に適するミズナラが豊富に自生しているため、活用先としてホダ木や薪の生産に着目した。
中川さんたち姉妹はホダ木生産の経験は少なかったため実際の流通レベルの品質、規格等については2021年度白老町で開催された自伐型林業塾「ホダ木生産研修」にも参加しノウハウを学んだ。
2022年には函館市が主催する自伐型林業の研修事業を「道南森づくりの会」がサポート。
ホダ木生産研修を実施し多くの参加者がミズナラ林の間伐材からホダ木を生産する技術を学んだ。
「道南森づくりの会」では現在40名程が登録しているLineグループがあり、お知らせの度に毎回20名程が集まり活動を行っている。
そしてこの冬、初めて近郊の原木しいたけ生産者に1000本のホダ木を出荷する事ができた。
「間伐でのホダ木生産は選木にこだわった。
じっくり観察し時間もかかるが、安全第一が1番。
今後は効率よく生産できる現場も確保したい」と意気込んでいる。
この活動に参加している佐藤友昭さんは2021年9月からのメンバー。
福祉事業の会社を複数経営する傍ら、週末はメンバーと共に汗を流している。
「一次産業がまちの骨格であり基礎であると考えています。自身でも将来は山を取得して林業を実践したい、また、このような活動を通して仲間が増えてよかったと感じています」と語り、仲間達との活動は充実しているようだ。
2022年に函館市が主催したホダ木生産研修を通して本格的にホダ木の生産を開始したグループが函館市の恵山の麓でも誕生した。
中村彩羅さん、フセインソフィアンさんご夫妻だ。
中村さんは父がパキスタン人、母が日本人。
父の仕事に関連して、中古建設機械等の売買や輸出を夫のフセインさん等と手がけている。
「父と兄が北海道の山を買いたいと言い出したんです」と中村さん。
約145haの山林を家族で資金を出し合い購入した。
父が恵山を始めて見た時、故郷パキスタンの長閑な畜産風景がイメージできたという。
そこで、中村さんは山を切り開いて畜産を始めようと家族に提案。
ちょうどその頃、ホダ木生産の研修が函館市内であると聞き、林業経験があるフセインさんと夫婦で研修事業に参加した。
フセインさんは本州で皆伐作業の経験はあったが、森を育てる間伐施業によるホダ木生産は初めて。
講師の大西氏(大西林業)から指導を受け、選木や採材の方法を学んだ。
そして、この春、恵山の山でパキスタンから来た仕事仲間とホダ木生産を始めた。
初年度ながら1万本以上のホダ木を生産する事ができ、本州にも出荷した。
想定を上回るオーダーに手ごたえを感じた。
今後も環境保全型の林業を勉強していきたいと探求心は尽きる事がない。
道南地方には豊富な天然林が存在する。
一部地域では炭焼きの材料等として皆伐してきたが、間伐を基本とする施業が函館市から広がる事で美しい道南の景観維持にも繋がるのではないだろうか。
始まったばかりの女性林業家たちの挑戦に期待したい。