作業道づくりから始まる暮らしの豊かさ

2024年2月20日

北海道内において自伐型林業の普及活動を開始したのは2016年の12月。今年で8年目を迎える。
現在道内では把握しているだけでも30団体以上、250名以上のプレーヤーが各地の山で林業を実践している。

山に入るための作業道が自伐型林業では必要となるが、ユンボのオペレーションは男女問わず身体的負担も少なく、参入障壁も低く、目に見えた整備実績を残しやすい。そのため、所謂自伐型の自営、企業等からの請負問わず、作業道へのニーズが高い。作業道自体は木材生産等のための事前整備であり、それ自体に当然ながら生産性はない。また、作業道づくりを目的化する事は本来あるべき姿の林産業の棚上げ的経営等の諸々の問題が生ずるが、そこを成り立たせるのが国や自治体からの補助金や交付金、または企業や山主からの事業費という事になる。

何かしらの資金を得て山に道をいれる事の期待や作業道づくりから始まる自伐型林業の広がりや暮らしの豊かさについてレポートする。(大西潤二)

上川町~天然林再生を促す作業道づくり~

上川町で実施した作業道研修会
写真左から作業道講師 岡橋清隆氏  里山部 清水省吾氏 上川町役場 平松悠揮氏

上川町は北海道上川地方中部、上川郡にある。人口3200人程の山間の町だ。森林面積は99,108haで総面積の94%を占めており、その内町有林は1,794ha、私有林3,122ha。町では木材価格の低迷による森林所有者の経営意欲の低下や森林所有者の不在村化、相続による世代交代などから整備が行き届かない森林の増加が懸念されるため、その解決の糸口として国から譲与される森林環境譲与税を有効に活用したいとしている。

今回、取材に対応していただいたのは上川町役場の平松悠揮さん。町有林の管理方針に以前から問題意識を持っていた。町有林の約6割は天然林であるが、荒い施業で行われた過去の立木払い下げ等による森林の劣化に危機感を抱き、5年程前から問題提言をしていた。林業が衰退しきっている上川町では林業事業体は森林組合しかなく職員も数名しかいない。新たな施業構想があっても実現させるためには人材が不足していた。

そんな時に出会ったのが旭川市で活動している清水省吾さん。清水さんは環境系NPOを退職後、「里山部」として個人創業し、地域の環境保全活動を推進する他、特殊伐採や自伐型の作業道敷設等の本格的な森林整備も請け負う林業家だ。上川町では本年度、過去に荒らされた約10haの天然林の再生事業を計画。森林環境税を原資に笹刈り等の天然更新補助作業を行うため、作業道敷設が必要であった。そのため、清水さんに事業を発注する事で問題解決の糸口にしたいと考えている。

事業を受託した清水さんは地域住民参加型の森林整備を提案。作業道敷設の研修事業では奈良県吉野林業地から岡橋清隆氏を招聘し道づくりの講習会も開いた。清水さんはその研修林に今年250m程の作業道を敷設。町の規模に合致したスケールの林業を提言する平松さんのイメージにマッチした天然林整備が本格的にスタートした。

上川町は林業従事者、人材確保が課題とされる。今後は地域おこし協力隊の制度利用も視野に小さな林業の森林整備を推進したいと意気込んでいる。

池田町~経済性と環境性が両立した林業を目指して~

写真 左から 川瀬千尋氏  頓所幹成氏「秋の山歩きはいつもキノコ探しをしながら。」
試行錯誤を繰り返して仕上げた作業道

池田町で地域おこし協力隊として活動し在籍期間中、自伐型林業のノウハウを学び地域を拠点に林産複合サービスの展開をスタートさせた「minotake forest works」。代表は川瀬千尋さん。

川瀬さんは不動産業の傍ら、地域おこし協力隊として同じ期間活動していた頓所幹成さんと林産サービスを展開している。二人は薪やホダ木の販売の他、ロープワークで木に登る特殊伐採、庭木の剪定等を受注する他、町内に30ha程の山林を借り受け森林整備もしている。

山林はミズナラなどの広葉樹が多く自生する天然林であり、薪やホダ木の生産には最適な山だという。林業を始めるにあたり、地元の林業家にノウハウを教わっていたが、技術の高みを目指し、北海道自伐型林業推進協議会が主催する「自伐型林業塾」にも参加した。山に道を入れる技術は岡橋清隆氏から現地で指導を受けた他、日常の指導は「里山カレッジ」で作業道講師をしている興梠修氏からも受けている。実際、自分達だけで山に道を入れると思いもよらない事ばかりだという。施業開始1年目、地質が火山灰性粘土で現場の入り口から困難な道付けであったが、それに追い打ちをかけるように水脈にもあたり泥濘を突破するのは苦労したという。3年目以降は線形設計の理解が深まり、土工やヘアピンを減らすなどの山の地形にマッチした線形を選べるようになった。

林業収入として川瀬さんは全体の5分の1程度、頓所さんは3分の1程度。二人はそれぞれ自身の核となる仕事の合間に林産サービスを展開しており、隙間時間で効率よく稼ぐ事を実現している。

今後の課題は「次世代に繋ぐ事」がテーマ。「担い手が来てくれるように経済性と環境性が両立した林業を目指していきたい」と熱く語る二人がとても頼もしく見えた。

池田町~作品としての道づくり~

自伐林家の冨山太一氏  山づくりのためユンボを購入した
作業道は時間を掛けて丁寧に作るため20m~30m/日程とマイペースを心がける

池田町では自伐林家の模範となるような若手の活躍も生まれている。

町内で製作活動をしているアーティストの冨山太一さん。冨山さんは東京の美術大学を卒業後24歳から制作活動をしている。池田町の冨山家の実家が古く炭焼きの親方をしていた事から大きな山林を所有している。先代が所有していた山林を冨山さんの父が所有する事になった2019年を契機に自伐型林業の道へ進んだ。

最初は森林組合と山を見て回ったが、「自身で山を管理」する事に強く惹かれていった。地元で開催する研修会や北海道自伐型林業推進協議会が主催する研修事業に参加する中、「森林山村多面的機能発揮対策交付金」の事を知り、2020年度から制度を利用し森林整備を始めた。活動メンバーは家族を中心に数名。作業道づくりや伐倒作業は冨山さんが担当しホダ木や薪、樹皮等の生産販売の他、作業道づくり等もしている。森林整備を始めて2年目に池田町の補助金を利用しユンボを購入した事で時間に制限なくマイペースで道づくりをすることができている。芸術家らしく「道はアート」として取り組む側面もあり、じっくり時間を掛けているため1日の敷設距離は30mほど。道づくりを始めた頃は路線選定時の支障木の伐採選木で悩むこともあったが、今はそれも道づくりの楽しみとして取り組む成長があった。

冨山さんは本業が創作活動。林業を兼業する事により収入も安定し暮らしぶりは悠々自適そのものに見えた。「自分の世代で全部回り切れないですね」と先祖から引き継ぐ約200haの山が冨山さんの源泉となっている。

支障木は玉薪にして販売している

北海道内において自伐型林業を取り組むにあたり、道づくりは必須スキル。今回取材した林業家たちはそれを自分なりにマスターし自分の仕事や暮らしに役立てている。自伐型林業を始めた事で暮らしの豊かさにつながっているのか、今回は当会の会員と過去に自伐型林業の研修会に参加された方達にアンケートを実施した。 

アンケートはメールで144人に送信し、37人からの回答を得た。

自伐型林業~暮らしの豊かさアンケート~

・現在、自伐型林業を実践している世代は40代が最も多く、次いで60代。自営業として取り組んでいる40代の林業家を60代以上がサポートしているケースが多い。
・当会の事業を契機に自伐型林業に取り組んでいる方は70.3%と半数以上の方が何らかの立場で自伐型林業に取り組んでいる。
・現在取り組んでいない方の要因としては、「山が見つからない」という意見が57.1%と最も高く、自伐型林業者のサポートとしては山の確保が重要である事がわかった。
・現在の山の管理面積は5ha未満が56.3%と最も多く、次いで10ha~50haが25%となる。
・年間の林業収入は無報酬により活動する方が33.3%。他66.7%の方が報酬を得ている。そのうち、100万円未満が41.6%と最も多く、300万円~500万円が11.1%、1000万円以上の収入を得る林業家も5.6%存在する。
・自伐型林業で取り組んでみたい分野としては作業道づくりが32.4%と最もニーズが高く、次いで間伐等の伐採が21.6%。森林施業等の現場系が54%である。
・林産物の販売・製品開発や施業地確保のための森林調査も合わせて37.8%で経営に関する分野にも関心が高い事がわかった。

~暮らしの豊かさ~

5段階評価で暮らしの豊かさを調査した。自伐型林業に参入する事により現在の収入状況には「変化なし~増えた」が80%との回答を得た。また、活動のため人脈が広がり、身心ともに充実しているという実態もある。若干、自由時間減少の傾向があるが充実した山仕事での時間で消費しているためと思われる。「総じて暮らしは豊かになりましたか?」の質問では「変化なし~とても豊かになった」と回答する方が91.1%にもなる。自伐型林業をスタートさせるには、研修事業への参加、仲間集め、山探しと数年を要する挑戦でもあるが、今の生活水準の低下や悪影響が及ぶリスクは少ないと言える。

何か不安があれば道内各地にいる実践者に話を聞く事をお勧めするし、当会もそのような方には今後も積極的に情報を提供していきたい。

自伐型林業による収入目標のスキーム

今回のアンケートでは多様なレベルで生業化している事がわかった。ここでは目標とする収入(年額)を持続的に達成させるためのスキーム(例)を挙げる。

50万円未満①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に1~2回程度の作業に参加する。
②5ha未満の山を管理し、1ha程度/年の施業を実施。
①・②単独、または①+②で達成。
50万円~100万円①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に3~4回程度の作業に参加する。
②10ha未満の山を管理し、2ha程度/年の施業を実施。 薪材等の販売も行う。
①・②単独、または①+②で達成。  
100万円~300万円①林業グループの活動や自伐展開している企業で週に3~4回程度で作業に参加する。
②10ha~20haの山林管理を行い、交付金制度を使い5ha程度/年の間伐や作業道敷設等を行う。
①+②で達成
300万円~500万円30ha程度の森林所有者となるか、自治体や森林所有者から山林を借り受け、交付金制度等を利用し事業を展開。薪やホダ木、一般材等の販売も併せて行う。年間の施業面積は5~10ha程度
500万円~1000万円50ha以上の森林所有者となるか、自治体や森林所有者から山林を借り受け交付金制度等も利用し事業を展開。薪やホダ木、一般材等の販売も併せて行う。年間の施業面積は10ha程度

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