山を起点に、豊かな未来図がひろがっていく-北海道森林バンクのススメ-

2023年3月2日

林業を生業にするには技術やノウハウの習得とともに、持続的に森林を守りながらサービスや商品を生み出せるポテンシャルの高い山が必要です。この“良い山”と出会うためには山主さんとのご縁と理解が欠かせません。NPO北海道自伐型林業推進協議会では、山を貸し出したい山主さんと林業をしたい小規模林業者の賃貸借契約仲介や、山主さんから寄付された山林を林業者に貸与する「北海道森林バンク事業」を行っています。今回は同事業を活用し、積丹町に20haの山林を貸与されて林業を開始した森田信道さんの事例をご紹介します。

森田信道さん

兵庫県出身。札幌市在住。北海道森林バンク事業の活用者第1号。脱サラして林業の世界へ挑戦。2021年から積丹町の山で自伐型林業家の活動をスタート。薪やホダ木、クラフト雑貨を販売するほか、山での体験型イベントなどのサービスを展開している。

大西潤二さん

白老町出身。(株)大西林業代表取締役。昭和21年から白老町で林業を手掛ける会社の3代目 2016年、北海道ではそれまでなかった小規模林業者の全道ネットワークづくりを始める。薪、炭、ホダ木、木酢液の生産販売の他、キャンプ場等も造成し運営している。


ー 森田さんは、もともとサラリーマンとして働いていたんですよね。林業については何から始めて、どのように知識やノウハウを習得したのですか?

私の場合は、白老町にある(株)大西林業で研修生のような形で技術を学びました。2020年3月に会社を辞めたので、翌月の4月から3カ月ほどですね。当初は大西さんから、「最低でも1年はやってみないとモノにはならないよ」と厳しいことを言われたのを覚えています。最初の1カ月は炭窯に入れるための120cmサイズの丸太を転がして、薪割り機で割ったり、立てかけたりするような肉体労働をしていました。

森田さんと初めて会った時の印象は「ザ・サラリーマン」でしたね。正直なところ、身体が全然動いていなかった。だから最初の1カ月は、森田さんの身体能力や適性を観察していました。うちは製造業なので「コツコツとした作業に耐えられるか」とかね。それでも、伐採の現場と比べると炭焼きの作業って楽な方なんですよ。

それは今になるとよく分かります。2カ月目くらいからチェーンソーを初めて持たせてもらい、玉薪(丸太を切りそろえただけの割っていない薪)を作る作業を手伝うようになったのですが、大西さんにはさんざん怒られました(笑)

目立ての悪いチェーンソーを使っていると、作業効率が悪くて見ていてイライラするんだよね(笑)無駄にエンジンを空吹かししたりして。

いやいやいや!今だから言いますけど、あれは渡されたチェーンソーの刃がダメだったんですよ(笑)そして(森林バンクの)山の話をしてくれたのも、その当時でしたね。「山を探しているんだったら、こんな事業があるけれどどう?」って。最初は新手の詐欺かと思いましたよ(笑)。当時、大西林業で働いていたK君に相談したところ、「森林使用に伴って、北海道自伐型林業推進協議会への寄付金の支払いが大変かもしれないけれど、他にアテがないのであれば活用するのも手ではないか」とアドバイスしてくれたので利用することにしました。

実際のところ収入の1割を寄付に当てるのは、大変ですか?(※)

※森田さんの場合は、山主さんからの山林寄付を受け入れ、当協議会が山主となって林業者に貸与する形式を取っています。当協議会の所有山林を貸与する場合には、山林使用料の代わりとして山林から得られる収入の1割相当の寄付金を申し受けています。

想像していたよりはキツいのが正直なところです(苦笑)。でも始めたばかりで、まだビジネスとしてやり切れていないからだと思います。2022年は交付金以外で70万円くらいの売り上げがあり、そのうち40万円が薪でした。

70万円も売り上げを出していて、すごいじゃないですか。

利益じゃなくて、あくまで売り上げですからね(苦笑)

売上項目金額
交付金3,342,866円
ほだ木原木74,000円
436,200円
クラフト製品73,490円
イベント売り上げ104,800円
合計4,031,356円
森田さんの活動組織の2022年度の売上明細

売り上げの明細を見ると、林産物収入が20%近くあって素晴らしいと思いますよ。新規参入者の中でも、この数字を達成できている人はなかなかいないので。2年目でこれだけできていれば、小規模自伐型林業家としては、いい線を行っていると思います。

でも、結構な経費がかかっているんですよね。メインで作業する構成員2名に人件費を支払っているので、自分の人件費をあまり確保できませんでした。僕自身の人件費は計画より少なかったんです。

ー 人件費以外だと、どのようなところに経費がかかりましたか?

バックホーのレンタルやガソリン薪割り機の導入などですね。

来年は、森田さんがメインでもっと作業ができるようになれば良いんじゃないですか?

そうですね。自分ができる作業の幅を増やしていきたいと思います。

経営を安定させるためにも、次の展開を考えないといけないですね。

今年は薪を30㎥弱切り出したので、来年は100㎥くらいまで切り出すのを目標にしています。

支障木(山に入るための道をつける時に伐採する木)で、それだけ切り出せたのであればすごいですね。林の中を伐るようになると、まだまだ切り出せると思いますよ。先日、積丹の山に入ったときに「こんなに充実した環境なんだ」と思いました。樹木の量としては問題ないから、達成できるんじゃないでしょうか。ただ、100㎥切り出すのはなかなか大変ですよね。薪を作るとなると、1日で玉切り(丸太をチェーンソーで切って玉薪を作ること)して割るところまでを1人1日当たり1.5㎥くらいできるかどうか。チェーンソーの切れ味次第だけど…。

今年は薪の生産に1カ月かかったので、もう少し効率化が必要ですね。

それから、人件費を交付金で賄っているのは理想的だと思います。

薪を柱にしたうえで、今後は山でのイベント事業を育てたいと思います。2023年は、自前の小さいイベントを増やしたいですね。経費をかけずに小規模での開催を心掛けて、こちら側があまり用意をせずに、純粋に山体験をしてもらいながらファンづくりをしたい。薪以外にもサービスや製品を増やしていって、ゆくゆくは交付金がなくても年間400~500万円くらいの売り上げを立てるのが理想です。

キャンプ場をやりましょうよ!20haの山で毎年400万円の売り上げを作るためには、小さくても産業的なことをやらないといけないと思います。薪や人工林、あとは行政などにも仕事をもらえると良いかもしれませんね。積丹町内で山関連の仕事を作れないかな?

おかげさまでいくつかのご相談はいただいているので、いろいろと考えています。薪の事業がもう少し本格的に育てられたら、札幌市から積丹町に移住して「林業× X」を作っていきたいと思います。

ー 森田さんは北海道森林バンク事業を活用して森林施業をしていますが、2年間の取り組みを終えた今、この事業を活用してどのような感触・感想を持っていますか?

それはもう、活用して正解だったと思いますね。

暮らしの質はどうですか?

何よりストレスが少ないです。そして、借りている山なので最低限のルールはあるものの、“自分の山”という感覚を持って施業できるのが嬉しいです。持続可能な林業を行うこと以外の制約がないところも気に入っています。資金のない状態からの1stステップとしては、とても良い選択だったと思います。

森田さんが施業する前の山林の様子
今の山林の様子

森林バンク事業がなかったら、きっと山と出会えていませんでしたよね。

そうですね。当時は漠然と「山はどこかで手に入れればいいだろう」と考えていましたが、それはかなりのギャンブルだったと思うし、良い人と巡り合えるかどうかも分からなかった。積丹の山は、ものすごく魅力的な山だと思います。アクセスのしやすさに加え、川や小屋もある。樹種が豊富で針葉樹も広葉樹も生えているし、広葉樹については種類が豊富です。僕はもともと空間サービスが提供できる山を望んでいたので、それを叶えられる山に巡り合えたのは非常にありがたかったですね。

ご家族の反応はどうですか?

妻はどっぷりと林業の暮らしにハマりまして、笹刈りが大好きになったようです。最初の頃は「虫が怖い」とか「一人にしないで」と言っていましたが、今は勝手に笹刈りしていますからね(笑)どうやら、自分が手をかけることで山がきれいになったり、見通しが良くなることがすごく嬉しいみたいで、山に愛着が沸いてきたのだと思います。

ー 森林バンクがなかったら森田さんは今、何をやっていたと思いますか?

うーん…。山を探していたと思います。恐らく積丹町ではなく、千歳市とか長沼町辺りで探していたんじゃないかな。森林バンク事業を活用したことで、実際には自分の考えていたエリアではない場所の山に巡り合いました。しかし先ほども話しましたが、積丹の山がとても好きになりましたし、だんだんと積丹町のことも好きになっている自分がいます。山にしても、町にしても、良い出会いだと思っています。

森田さんの活動組織「積丹グリーン」のメンバー

やはり、出会いや縁が大事ですよね。山主さんとは縁がないと。人間関係の上で成り立っているからね。森林バンク事業は山主さんにオススメできますか?

はい。オススメできます!なぜなら、自伐型林業を始めようとしている人の多くは、お金儲けを目的にしていないんですよね。もちろん生活をしていかなければならないけれど、儲けようと思えば他にもたくさん仕事があるわけですから。それでも山に関わるのは、何かしら山に対する思いがあるということ。そういう思いのある人と共に山を維持していくのは、森林バンクに依頼する山主さんにとっては安心できると思います。思いのある林業家に山の管理を頼む方が、未来に向かって絶対に良い方向に進むと思います。


北海道自伐型林業推進協議会では、山主さんと意欲のある小規模林業者とを仲介・マッチングする森林バンク事業を通して、持続的な自伐型林業者の就労環境拡大と、より豊かな森林を次の世代に残す事を目指しています。所有している森林の利活用お悩みでしたら、お気軽にお問合せください。

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