関わる森を育てる ― 道南から始まる新しい森づくり

2025年11月29日

森の声をきく #01

北海道・道南の森で、「森に関わること」を暮らしの延長に取り戻そうとしている人がいる。
一般社団法人 道南森づくりの会・代表理事の中川かおりさん。
建築の現場で木に向き合ってきた彼女が今つくろうとしているのは、
“関わる人が育ち続ける森”だ。
イベントや研修を重ね、出会いを森へとつなぎながら、
道南から始まる新しい森づくりの形を探っている。
その現場を訪れ、話を聞いた。

【1】動きが「立体的」になってきたこの1年

ここ一年、道南森づくりの会の活動は大きな広がりを見せた。
あらかじめ一年分の計画を立てながら、三つの柱を軸に動いている。
ひとつは、二カ所の山で行う森林整備。
もうひとつは、函館市から依頼を受けた林業研修。現場の技術を地域人材の育成へつなげている。
そして三つめが、一般向けワークショップだ。今年は5月、6月、10月の三回で開催し、取材日前日も一回を終えたばかりだった。
こうした活動が、さまざまな地域からの反応を呼び込んでいる。
岩手県からは、市議会議員4人が視察に訪れる予定だという。
北海道内では標茶町に招かれ、町長、林務課、森林組合、地元事業者らと意見交換の場を持った。
「現場を見たい」「地域で同じような取り組みができるのかを知りたい」――
そんな声が、届き始めている。
教育現場ともつながりが広がりつつある。
高校ではSDGsの授業として森林環境について語るようになり、今年で三年目。
小学校の木育授業の依頼も増え、体験型プログラムに興味を持つ先生や保護者からSNS経由で連絡が来ることもある。

【2】「山活動お誘いグループ」が生む、つながりの循環

会の活動を支えているのは、現場に集う多様な人たちだ。
その入口になっているのが、LINEの「山活動お誘いグループ」。登録者は72名にのぼる。
研修に参加した人へ声をかけると、ほとんどが「入りたい」と答える。
グループでは中川さんが日常的にワークショップ情報や森の話題を発信し、呼びかけに応じて20人ほどがすぐ動くことも珍しくない。
春のイベントではのべ100人が参加し、雨の日でも50人以上が集まるほどだ。
また、函館 蔦屋書店のような場所に出店し、木や森に興味を示した人へその場で研修を勧めることもある。
出会いが、すぐ森への一歩になる。
“出会いの場と森をつなげていく” という意識が、活動の根にある。

【3】林業を「誰でも入れる現場」へ

女性参加者は常に3割前後。社会人、主婦、フリーランス、定年後の人まで、参加者の背景は幅広い。
「週末だけ」「本業+林業」という柔らかな関わり方ができることが、参加のしやすさにつながっている。
林業には力仕事のイメージが強いが、現場では多様な工程が存在する。
重い木を扱う作業もあれば、繊細な作業、段取りや安全確認、機械操作など、集中力や判断力が求められる仕事も多い。
“性別や体力で線を引かない”こと。
“無理をしない”こと。
それぞれが自分のペースで関わることで、続けられる現場が形づくられている。

【4】続けてもらうために必要なこと

活動の広がりと同時に、「関わり続けてもらう仕組み」づくりも重要になっている。
参加者には本業や家庭がある。
限られた時間のなかで安全に作業するには、技術と意識の両方が欠かせない。]
林業技能士制度(1〜3級)の導入を見据え、スキルアップの機会を増やし、
“ただ来て終わり”ではなく、継続的に関われる体制を整えている。
同時に課題となっているのが、情報発信だ。
「こんな活動が近くで行われているなんて知らなかった」
そんな声は今も多い。
そのギャップを埋めるため、公式LINEやInstagramの整備を進め、
“関われるチャンス”を見える形にしようとしている。
行政との連携には地域差がある。
森町のように木育をまちぐるみで進める自治体もあれば、まだ「森に人を入れること」の意義が共有されていない地域もある。
「理想は、『この山をなんとかしたい』という具体的な現場があって、そこに私たちが入る形です」
現場があれば人は育つ。
逆に現場がないまま人だけ増やしても、活躍の場が生まれない。
それは、ただただもったいないことだ。

【5】森の中で感じたこと ― 手を入れることで見えてくる風景

取材当日、森の入口にある小屋の前には、冬につくられた薪が整然と積まれていた。
風に乗って、乾いていく木の香りがふっと漂う。
この薪は、販売の時期を迎えているという。
前日に張ったイベント用テントの湿気が少し残り、薪の香りに混ざって独特の匂いが立ち込めていた。
森は、ほんの些細なことで表情を変える。

そう教えられて周囲を見渡すと、前に訪れたときとは違う空気が流れている。
作業エリアは、仲間たちが少しずつ開拓してきた場所だ。
ニセアカシヤ、プラタナス、モミジ、イチイ。
枝葉の下には、人が手を入れたことで“庭”のようになりつつある風景があった。
奥へ進めばブナやナラが増え、季節ごとに全く違う表情を見せるという。
わずかだが、クロモジ(黒文字)も生えている。
枝を折るとやわらかな香りが立ちのぼるが、本数が限られているため取りすぎないよう注意している。

作業を共にする仲間には、双子の妹・さおりさんがいる。
道づくりが得意で、重機を自在に操る。
過去に当会が開催している自伐型林業者育成講座(現:里山カレッジ)を受講した五十嵐さんも現場でマルチプレーヤーとして活躍している。かおりさんの立てる事業計画に沿って、現場を安心して任せられる協力体制となっている。
林内作業車の導入により、木の搬出は格段に楽になった。
管理対象の山は145ヘクタール。そのうち実際に手を入れているのは8ヘクタールほどだが、
“限られた範囲でも長く維持できる状態にしていく”ことを大切にしている。
どんぐりの実りは今年はほとんど見られなかった。
昨年は大豊作だった地域もあると聞いた。
ブナの実は小さいが、近づいてよく見るとひまわりの種のように可愛らしい形をしている。
中川さん自身、子どもの頃は家族で山菜採りに出かけていたという。
山での原体験があるからこそ、森を「楽しむ場所」として自然に捉えられる。
若いメンバーにも、そんな体験を届けたいと話す。

【6】「循環を形にする」これからの展望

最後にこれから先の展望を尋ねると、中川さんはこう語った。
「私の役割は、完成形をいきなりつくることではなくて、みんなが関われる土台を少しずつ形にしていくことだと思っています」
安心して関われて、自分の“やりたい”を持ち込める場所。
それを整えるため、毎年秋には翌年度の準備に入り、
研修計画、ワークショップ設計、整備する山の選定、必要な予算の確保など、
多くの作業を同時進行で進めていく。
来年度はもう一カ所、新しい山への整備にも着手する予定で、現地調査も始まっている。
さらに中川さんが大切にしているのは、「切った木の先まで関わる」ことだ。
建築の現場を経験してきたからこそ、
木を伐り、加工し、形にし、届ける――
その流れを会の中で完結させたいと考えている。
幸い、家具や建具をつくれる設備があり、デザイナーもいる。
「この木をどう活かせるか」を、小さな試みとして積み重ねているところだ。
最終的に目指すのは、
「ここに来れば森と関われる」
「自分のやりたい形で関われる」
そんな場を、道南に今より豊かに残すこと。
完成形ではなく、土台を少しずつ確かに積み上げていく。
その歩みこそが、これからの森づくりをつくるのかもしれない。


【編集後記】

案内してもらった社有林は、道南森づくりの会が研修やイベントで何度も訪れてきた場所だった。
足を運ぶたびに、森の風景が少しずつ変わっている。
伐って、積んで、また森へ還していく。
その小さな営みの積み重ねが、確かに森の表情を変えている。
取材を通して感じたのは、こうした一つひとつの現場が、
地域の新しい関わり方を生む“芽”になっているということだった。
「こうしたい」「ああしてみよう」という声が重なるとき、
その波は時間をかけて地域の風景を変えていく。
森で起きていることを伝えること。
それもまた、森に関わるひとつのかたちだと感じた。

— 澤田健人


企画・公開
NPO法人北海道自伐型林業推進協議会

構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)

制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer

助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」

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