森の声を聞く #04
技術と制度のリアル ― 自伐6年の経験が描く北海道モデル
話者:冨山/澤田
取材地:北海道・広葉樹林内の作業道/ヘアピン周辺
森の中のフィールドノート:倒木とヘアピンと線形の話
台風明けの広葉樹林に入ると、いくつかの倒木が目についた。
しかし、作業道は壊れていない。
現場を見れば、なぜ壊れないのか分かる。
道の幅、カーブの位置、形状、法肩の処理、勾配のつけ方、土質の選び方。
どれもが丁寧で、必要十分な手が掛けられているからだ。
01|道づくりの実践:線形/転圧/越冬/安全設計
冨山さんの道づくりは、「誰が走るのか」を設計の起点にしている。
- 自分
- 妻
- 父
- 将来、別の人が使う可能性もある
「家族が怖くない道」は、普遍的に安全で、誰もが走れる。
● 幅の基準
- 造成イメージ:2.5〜3.5m
- 実運用:2.5〜2.8m
- これまでは軽トラ運用でも“小型クローラ+グラップル”も見据えておく
北海道特有の気候(凍結→融解)に対応し、
季節に一度“寝かせる”判断もある。
砂質・粘土質で癖が違うため、最初から作り込みすぎず、
履いて慣らしていく=使いながら整う道を意図的につくる。
● 線形(ルート)の引き方
- 3m単位で見直せば曲線は必ず良くなる
- 無理に高密度で入れない
- 違う導線で「牽引で木寄せ」できる場所は無理に道を入れない判断もする
- 50ha〜200ha単位のバランスで考える
QGISは計画段階の“俯瞰”に使うが、
現場では型×臨機応変の往復運動。
「現場で美しい線形に落ち着く場所は、最終的に壊れにくいんです。」

02|育成木施業の深度:定性の現場と一本の未来
広葉樹の育成木施業は“量”ではなく“質”で判断する世界だ。
「一本ごとに“どうすれば健康に太るか”を見ていきます。
光、根域、将来形。
どれか一つでも欠けると、せっかく残しても価値が上がらない。」
間伐の“定量”ではなく、
育成木を中心に据えて周囲を退けるという考え方。
道が残されることで搬出の自由度が生まれ、
施業の繰り返しが“収穫=手入れ”に近づく。
美しい森をつくることと、
経済性を高めることが同じ方向を向くのが、この施業の特徴だ。
03|QGIS×現場:俯瞰と微調整の往復運動
冨山さんはQGISを使いこなし、森を俯瞰している。
- 等高線
- 斜度
- 水系
- 既存踏査
- 行きたい場所/行ける場所の両面
「俯瞰で“理想の線”を描き、現場で“現実の線”へ合わせる。
このすり合わせが楽しいんです。」
ただし、QGISがすべてを決めるわけではない。
現場で一歩進むごとに、修正とフィードバックが生まれる。
“一気通貫の迷いのなさ”より、
途中での微調整を許すほうが壊れにくい道になる。
04|薪・搬出・加工の現実と可能性
広葉樹を間伐していくうえで、木材活用の重要な出口のひとつが薪である。
北海道でも地域によって単価や需要は大きく異なる。
- 札幌圏:配達込みで約3.5万円の例
- 十勝:2.2〜2.4万円帯
- いずれもユーザー数は増加傾向
冨山さんは言う。
「間伐材を活かすには、地域の薪文化と同期させることが大切です。」
搬出に関しては、
クローラー系の搬出機械が一台あるだけで世界が変わるが、
同時に、機材購入が施業規模を押しつぶしてしまう場面もあるという。
この“設備投資の壁”は、多くの自伐型林業者が抱える共通の悩みでもある。
一方で、薪生産については、
複数の自伐者で共同利用する割薪拠点(共同加工場)があれば、
より現実的で効率的な仕組みになるのではないかと澤田は感じた。
- 全自動割薪機
- コンベヤ
- フォークリフト
- 一貫した配送導線の確立
これらを数組でシェアすれば、
個々の負担を減らしつつ、
間伐材の価値化と地域の薪循環を両立させられる可能性がある。
薪は、森の健康を支える“出口”でありながら、
地域経済とも深くつながる領域だ。
だからこそ、効率的な基盤整備と地域内の協働が、
自伐型林業の持続性を大きく左右する。

05|制度のリアル:多面だけでは支えきれない
北海道には、こうした恒続林的な森林管理にフィットした制度はまだ存在しない。
現行の枠組みは、いわゆる“恒続林思想”とは反対方向にある法正林思想(皆伐→再造林を前提としたサイクル)に基づく計画制度が中心である。
その中で、主に森林ボランティアを対象とした
多面的機能発揮交付金制度(いわゆる“多面的”)**がかろうじて活用でき、
これを頼りに自伐を続ける人も多い。
しかし、それだけでは自伐型林業を持続させるには不十分という現実がある。
たとえば
- 壊れない作業道をつくるための実質的コスト
- 中小重機の運用を前提にした装備・メンテ費用
- 広葉樹施業や自伐施業そのものへの正当な評価制度の欠如
- 一団体あたり年間上限500万円の枠による、
施業面積を意図せず縮小せざるを得ない構造
冨山さんは言う。
広葉樹の育成には、定性間伐しかないんですよ。
木を残す判断にも、現場での“質”が問われます。
現場で必要な判断と、制度が前提にしている論理にズレがある
その“不整合”を丁寧に見える化し、行政に率直に伝えていくことで、正当なこの国の森林を管理するためにかかる費用を引き出す可能性が広がる。
そして何より重要なのは、
こうした制度的な不遇の中でも、
“自伐 × 何か” という創意工夫によって成り立たせてきた実践者たちの努力があるということだ。
冨山さんも、その一人である。
だからこそ、
北海道各地で情熱と技術をもって森に向き合う実践者たちの現実に寄り添い、
彼らが本来の力を発揮できるような制度設計へと変化をする必要がある。

06|北海道モデルの核心:広葉樹×恒続林を制度の中核のひとつへ
北海道の特徴は、“ほとんど誰もやっていない前提”があることだ、と冨山さんは言う。
「温暖化が進むほど、広葉樹を残すこと自体の価値は上がる。
人工林の論理をそのまま持ち込むのではなく、
広葉樹の複層林を軸にした恒続林モデルを制度に位置づけるべきです。」
行政、山主、プレイヤー、企業、
関わる主体が多いほど、ビジョンの定義が重要になる。
- “貸したくなる森”とは何か
- “参加したくなる森づくり”とは何か
- “制度で支援したくなる理由”とは何か
北海道の自伐型林業が「選ばれる林業」を目指すなら、
この三者に響く言語化ができれば、時代のニーズから見ても共感する人はもっとたくさんいるはずだと語る。

08|10年で技術を文化へ:未来へ届く“仕掛け”としての自伐
冨山さんはすでに「次の10年」を見ている。
「まだまだこれから。でも10年かければ、きっと文化にできます。」
世界的な潮流も、森の活用も時代によって大きく変化してきている。
岡本太郎の「伝統は創造するもの」という言葉を引きながら、「自伐型林業も、時間をかけて地域の文化として“炊き上げていく”ものだ」と語る。
施業の蓄積、道の蓄積、山の蓄積。
それらを束ねて制度へつなぐのがNPOの役割であり、
現場を深め続けるのが実践者の役割だ。
北海道の美しい森を守り、
使いながら残す道を示していく。
その営みは、単なる木材生産の林業ではなく、
未来へ届く“仕掛け”としての行動を伴う思想だ。

企画・公開
NPO法人北海道自伐型林業推進協議会
構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」