― 足寄に暮らす移住者・鈴木勇一さんが描く、“森の仕事で暮らし方”
森の声をきく #03

千葉から北海道・足寄町へ。
千葉ではクライミングジムを運営していたが、森の中で新しい暮らしを始めた。
ハンターとして鹿を追い、時にはチェンソーを握り、夜は薪ストーブを炊いて楽しく過ごす。
暮らしと仕事の境界が、いつの間にか溶けていった。
「ハンター×自伐は、里山のバッファーゾーン管理を現実的に進めるもっとも有効な鍵だと思うますね」
そう語る鈴木勇一さんの目は、確かな静けさを湛えていた。
【1】足寄へ ― クライミングジムから森の仕事へ
5年前、鈴木さんは千葉から足寄へ移住した。
しばらくすると、縁があって5000坪の敷地に建つ家を手に入れた。


「妻と“北海道に行こう”と決めてからは、迷いはありませんでした」
もともとはクライミングジムの運営に携わっていた。
移住して、足寄の林業事業体に入り、重機も造林もいろいろ経験させてもらった。
その後、自伐型林業を耳にして興味を持ち、里山カレッジで技術を学んだ。今は退職。
やがて放牧酪農家と出会い、「この山を任せてみるよ」と声をかけられる。それが、鈴木さんの“自伐林業者としてのはじまり”だった。
家と山を紹介してくれた人との縁にも恵まれた。
林業事業体では多くを経験させてもらい、今でも当時のボスが鈴木さんの現場を手伝ってくれたり、仕事を振ってくれたりと良好な関係が続いている。
そうした信頼の輪は、鈴木さんの誠実な人柄によるところが大きいのだろう。
若い頃には海外を放浪した経験もある。
無人島や小笠原では、セメントを担いで砂防堰堤をつくり、
モンゴルや中国を旅しながら、自然の中で暮らす人々の姿を見てきた。
身体で覚えた“生きる力”が、いまの仕事の土台になっている。
さまざまな土地を旅し、自然の中で暮らす人々の姿を見てきたことも、いまの「自分の手で生きる」ことが自然な感覚になっている。
【1-2】 対照的な夫婦、森で生きる
奥さんはまったくワイルドとは真逆のタイプの違う人だという。
それでも、勇一さんの選んだ道についてきてくれた。
「いまは鹿の解体も手伝ってくれるし、ユンボで木を引っ張ったりもしてくれます。」
笹が腰まで伸びるような薮だったので、奥様のためにも
危ないから笹はなるべく刈るようにしているそう。 夫婦で森に手を入れていく。
違う性格の二人が、少しずつ呼吸を合わせていくように。
この森の暮らし自体が、ひとつの共同作品のようだ。

【2】 広葉樹の森に、道を描く
現場は、家から車で10分の放牧地に隣接する約30町歩の山。
戦後開拓から続く家系の酪農家が所有している。
木々はナラや白樺を中心に50年生ほど。
3年間で約1000m以上の作業道をつけた。
次は上部を等高線でつなぎ、森をひと回りできる周回路にする予定だ。
「最初は道つけ下手でしたね。毎回“ああ、失敗したな”と思いながら次に生かす。でも、そうやって森と付き合うのが一番楽しいんだろうな。」
搬出は軽トラ。
90センチに玉切りして家で割る。
太い木は軽トラに取りつけたウインチで引き上げるそう。
無理はしない。自分の体のリズムと、森の呼吸を合わせるように働く。

【3】 “ハンター×自伐”という暮らし方
春は道をつけ、夏は鹿を追い、秋は間伐。
冬は静かに休む。
そんなサイクルが、いまの鈴木さんの1年だ。
「ハンターだけの収入で食べていける人は少ないけれど、
自伐と組み合わせれば、暮らしは成り立ちます。」
4月から10月までは、足寄町に来るペットフード業者が鹿を買い取ってくれる。
さらに1頭あたりの駆除報奨も加わり、確かな収入になる。
この地域の鹿による牧草被害は年間1.9億円。
放牧地と森のあいだ――“バッファーゾーン”を整えることが、
人にも、自然にも、現実的な解決になる。
「酪農家さん達にとって大切な牧草を作っている場所だからこそ、森をきちんと整える必要がある。
狩猟と自伐は、本来ひとつの仕事なんです。」

【4】 行政と中間支援がつなぐ「信頼の輪」
鈴木さんのもとには、町の職員も見学に訪れる。
「こんなやり方があるのか」と話し合うという。
「自分の暮らす地区では顔が知られているから信頼があるけれど、少し離れると、話が通じにくいこともあります。行政が間に入ってくれると、信頼関係の構築が一番時間がかかるので、山主さんも安心できると思いますね。」
澤田(聞き手)も頷く。
「確かに、あと地域でプレーヤーが自ら制度を動かそうとすると我田引水に見られやすい。
だからこそ、第三者としての中間支援があったほうが綺麗だと思います。なので、NPOとしては、中間支援をもっと頑張ろうと思います。」
【5】 つながる人たち、広がる森の縁
十勝には、同じように小さな森を守る人たちがいる。
Minotake(別の記事で紹介する)チームもそのひとつ。
鈴木さんは互いの活動の“構成員”として協力し合い、
お互いの現場を手伝いながらつながっている。
「みんなそれぞれのやり方で動いていて、無理せず、でも確かに前に進んでいる。そういう関係がいいんです。」
【6】 森と暮らしのあいだに
仕事が終わると、焚き火の煙が夕方の空に溶けていく。
遠くには日高山脈、そしてトムラウシと大雪。
「休みをまとめて取ることもあります。
忙しいときは一生懸命やって、それで食えてるなら、それでいい。」
無理をしないで、続けていけるペースを守りたい。
それが、鈴木さんの「生き方としての林業」だ。

【7】バッファーゾーンの先へ
足寄の森で見えてきたのは、
「ハンター×自伐」という新しい共存の形。
狩猟で森を整え、林業で暮らしを支える。
その循環の先に、人と自然のバランスがある。
「ハンター×自伐は、里山のバッファーゾーン管理を現実的に進める鍵。」
この言葉の通り、
鈴木さんの森づくりは、
これからの北海道にとって、
小さくても確かな一つの希望のかたちになっていく。
企画・公開
NPO法人北海道自伐型林業推進協議会
構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)
制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer
助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」