柔らかく、生き生きと。十勝・池田町で道をひらく

2026年3月10日

森の声を聞く #06

01|はじめに:壊れない道を、静かにひらく人

北海道・十勝。
新しく敷いたばかりの細い作業道が、午前の光を受けて白く光っていた。
仲間と共に「壊れない道」を敷設していた川瀬千尋さん。
重機を降りると、さわやかに笑いながら木立を見上げる。
柔らかい物腰で軽やかに動く一方、
言葉の端々には、静かな闘志と、揺るぎない自己完結の強さがある。

山菜とキノコが好きなんですよ。
だから、“好きなことを続けられる森”であってほしい。

それが、川瀬さんの森づくりの原点だ。

川瀬千尋さん(株式会社minotake/株式会社川瀬不動産)

02|自衛官から不動産、そして協力隊へ

山に向かう決意は「予定より早く訪れた」

様似町出身。
自衛官を経て、不動産会社で12年。
その間に家を持ち、子どもが生まれた。
本来なら、キャリアが落ち着いた後に
「いつか山をやりたい」と思っていたが――

いずれは山で何かしたい。
そう思っていたら、想定より早く“行こう”と決めたんです。

池田町の地域おこし協力隊に入り、
そこで自伐型林業を3年間学んだ。
現在は 2つの会社(minotake/川瀬不動産) を経営しつつ、
民泊、特殊伐採、山林売買、放置林活用「Anomori」、
そして 北海道企業の森のコーディネーター としても活動している。

03|森はお荷物なんかじゃない

人が関われる仕組みを商品にする

放置林は、価値がないと言われることが多い。
手も入れられず、木材としての生産性も低いからだ。
しかし川瀬さんは違う。

森を“不要な不動産”にしない。
その代わり、人が関われる仕組みを商品にする。

道がある=人が使える森になる。
その一点に徹底的にフォーカスしたのがAnomoriだ。

  • 放置林に壊れない作業道を入れ
  • 人が入れる森にして
  • 山主へつなぎ、価値を再生する

建物でも家具でもなく、
「森へ入るための最初のインフラ」を商品にもしている。

04|制度は乏しい。

それでも「進む」と決めた理由

北海道の広葉樹林には、
戦後の皆伐後に自然更新した 画一的な二次林(50年生前後)が多いのが現状だ。
高さも太さも揃い、道もない。
まず必要なのは、稼がない投資=道づくり
今の時代が“もっとも苦しい時期”だ。

確かに今は制度も少なく、戦後林の状況を考えても
林業だけで成り立たせるのはリスクもある。

それでも川瀬さんは、長期的な視点で腹を括っている。

「今は割を食う時代。でも、100年の森に育てば、こちらの番が来る。」
周囲が50年生で止まる森の未来に、
自分たちのスタイルで管理していく森は80〜100年生へなっていく。そして持続していく。
その差は、森の価値そのものになる。

長いスパンで考えるのが得意なんです。
森も不動産も、そういう意味では同じですね。

05|複雑な森に誘導するという選択

「複雑であること」は森の強さになる

今の森は画一的な二次林が多く、
単一性の人工林は病気や気候変動で一網打尽になるリスクもある。
そのため川瀬さんは、
自伐型林業で択伐を重ねて複雑な森へ誘導する。
樹高、太さ、光の入り方、樹種。
“違い”が積み重なることで、森は強くなる。

複雑であるほど、森はしなやかになる。
自分たちが手を入れた森は、100年後に本当の価値を残しているはずです。

06|“しっかりと考えた上で林業をするならそれでいい”という思想

川瀬さんは言う。

最後は、自分の森を一番知っている人がプロでいい。

原理原則(壊れない道/安全な伐倒/育成木施業)は押さえつつ、
そこから先は、森と対話しながら判断する。
柔軟で、しかし甘くない。
そのバランス感覚が川瀬さんらしい。

07|プレイヤーが増えるために

「ゼロか100か」ではなく、小さな参入を肯定する

1haからでもいいんです。
自分の薪を切り出すだけでも立派な自伐型林業ですよ。

自伐は大規模である必要はない。
むしろ、小さく分散するほうが北海道に合っている。

副業で始めて、森が成熟してから次の世代が専業でもいい。
段階的でいいんです。

その柔らかな思想が、
北海道にプレイヤーを増やす土台になる。

08|長い目でみること

“今”だけではなく、その先を見て動ける人

仕事は多岐にわたる。
だが、軽やかに回しているように見えるのは、
彼が 短期と長期の両方で物事を考えられる稀有なタイプ だからだ。

長いスパンで考えるのが好きで、
それがそのまま森づくりに合っているんだと思います。

“いま”には巻き込まれない。
しかし“いま”をおろそかにもせず、
その先を見据えて手を動かす。
生き生きと、しなやかで、静かに強い。

09 | 静かに、誰よりも遠くを見ている人

新しく通した道の端で、川瀬さんはふと足を止める。
土を踏みしめ、陽の当たる斜面を見上げる。
そこには、画一的な二次林の森。
しかし彼の目には、100年後の“複雑で美しい森” が確かに映っている。
今はこうした手法への国・道の制度的な支援も現状は乏しく、
森の状況も決してやさしくはない。
それでも川瀬さんは進む。
未来の森で、自分たちの番が来ると知っているから。
淡々と、そして軽やかに。
十勝の風の中で、
川瀬千尋さんは今日も、静かに道をひらいている。


構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)

制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer

助成
休眠預金等活用事業「地域山林の未来を担う林業者サポート事業」

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