森づくりは、流域づくり

2026年4月8日

池田町・元林務担当 山本さんが描いた50年後の森

森の声をきく #08

1|「私が抜けても続く仕組みを」–– 異動を選んだ理由

池田町の元・林務担当 山本さんは、11年の任期を静かに振り返った。

「ずっと一人でやり続けることに違和感があったんです。
それに、私が抜けたら続かないようでは困る。
そう思ったから、自分で異動を希望しました」

林務の現場は、制度、山主、組合、現場、行政内部──
一本の糸では語れない複雑さが重なり合っている。

「続ける」よりも、
「仕組みとして残す」ことを優先した決断だった。

しかし現実は厳しく、後任はゼロベースに戻す判断をし、
ほどなくして退職。
結果的に山本さんは1年半“兼務”に戻ることになった。

「町として向かう方向は間違っていない。
でも、速度は確かに落ちましたね」

その声音は、愚痴ではなく、静かな責任感だった。

現在は税務課地籍調査係に移り、
視野はむしろ広がった。
“地域の森林産業”への想いではなく、
地域の森林のあり方に向き合うスタンスは、より冷静で深くなった。

2|50年後の流域のために描いた「多様な森」

山本さんは、池田町の未来を“流域”で考えていた。

「どんな森も一種類じゃダメなんです。 人工林も、天然林も、皆伐再造林のエリアも、 自伐型林業による自然配慮の林もあっていい。 そのモザイクの中で、動物も人も森の恩恵を受けられる」

町の中心を流れる利別川。 その流域全体を“ひとつの風景”として見ると、 人工林だけに依存する森林経営では持続しない。

実際、カラマツ人工林は40年スパンでは赤字になっていることに当時気がついた。 これだけでは持続可能とは言えない。

だからこそ天然林・広葉樹に目を向けた。 木材だけでなく、炭材、薪、交流資源── 「森を多用途で使う」方向へ舵を切ったのだ。

その文脈の中で、 自伐型林業が現れる。

3|自伐型林業を“制度”として扱おうとした行政職員の目線

最初に立ちはだかったのは、 「一般の林業事業体は広葉樹の天然林をやりたがらない」 という現実だった。

そこで出会ったのが、大西さん(当会代表理事)、中嶋さん(NPO法人自伐型林業推進協会代表理事)、 そして北海道自伐型林業推進協議会の動き。

「自伐なら天然林を扱える。 地域に仕事をつくれる。 多様な森づくりを実現できる」

そう確信した山本さんは、池田独自の制度を設計した。

池田町が整えた“前衛的な制度”

  • 作業道補修 1m=1,000円 の補助(森林環境譲与税)
  • 2割未満の弱度間伐でも実質使える
  • 1haあたり 12.5〜20万円 の定額支援
  • 林業事業体に登録すれば、機械や安全装備に半額補助

これは北海道でも先進的だった。そして池田町ではこの制度がちゃんと生きている。

「組合のやり方とは別の“もう一つの道”を、制度として残したかった」

4|行政のお財布事情と、“制度を使ってほしい”本当の理由

山本さんは行政の“裏側”を飾らず話してくれた。

「森林環境譲与税は“森林に使う”と決められたお金。 使えば使うほど行政としても説明しやすいんです」

一方、 一般会計(自由に使えるお金)は、他部署との競合が激しい。

  • 福祉
  • 教育
  • インフラ
  • 子育て

小さな自治体ほど、この競争は厳しい。

「だから、森づくりは贈与税で動いてくれたら本当に助かる」 地域の中で、信頼や勢いも使ってくれた方が起こせる。

これは行政の都合というよりも、 “自治体としての現実”だ。

そして山本さんはこう続ける。

「制度は用意できる。 でも、使うかどうかは皆さんの判断。 だからこそ、制度への理解を促す“中間支援”も必要なんです」

行政には制度がある。 しかし、“制度を使えるように翻訳する人”がいなければ動かない。

5|それでも“自伐一本では食えない”という現実

山本さんはごまかさない。

「今の国や北海道の制度だけでは、自伐一本で食べるのは難しい」

これは、かつての池田町の林業の協力隊たちにも伝えてきたことだ。

「林業は“掛け算”です。 自分が積んだキャリアと林業を両輪にして、 3年でスタートダッシュできる状態をつくりなさい」

冷たさではなく、 “一人の人生を背負う覚悟”を持った言葉だった。

6|行政からみた現場:惜しさ、期待、そして課題

山本さんは、自伐の実践者たちに敬意を持っている。

「森づくりの技術は、本当に100点です。
でも、仲間を増やす、行政を巻き込むという面では惜しい部分がある」

山本さんは、行政が動く条件として
“地域に行政と対等に話せるキーマンが必要”
であることを強調する。

行政 × 中間支援 × 地域キーマン

── 三層が揃って初めて“政策”として扱える

以下は例として、

レイヤー1:地域の実践者

  • 山主と対話できる
  • 森を案内し、現場を翻訳できる
  • 自走する林業者であること

レイヤー2:北海道自伐協(広域の中間支援組織)

  • モデルの言語化
  • 研修・安全管理の標準化
  • 行政との協議の場づくり
  • 制度デザイン

レイヤー3:行政

  • 予算化
  • 制度運用
  • 公益性の判断
  • 地域支援の後押し

「この三つが揃ったとき、自伐型林業は“選ばれる林業”になる」

7|「私を使ってください」–– 11年戦った行政職員からの言葉

話の終盤、山本さんはこう言った。

「私でよければ、いつでも協力しますよ。
存分に使ってください」

社交辞令ではない。
11年ひとりで戦ってきた人の、心からの言葉だった。

  • 制度と現場のズレ
  • 森林の未来への危機感
  • 事業者の人生への責任感
  • そして、“次の世代を支えたい”という願い

そのすべてが、この一言に凝縮している。

8|最後に:切り開かれた道と、これから続く道

山本さんは、自分の11年をこう振り返った。

「ゴールに向かって笹藪を切り開いていくような仕事でした。
その時は必死だから、後ろなんて振り返らない。
一度手を止めて振り返ったとき、
“ああ、ここまで来たんだな”って気づくんです」

その言葉を聞きながら、澤田さんは思った。

この人は、一人で戦い続けてきた。
だから今、私たちが歩ける道がある。

感謝と尊敬が、静かに胸に残った。

池田町でひとり、道無き道を切り開き続けた11年。
その上に、これからの“新しい森の時代”が始まっている。


構成/取材/撮影/編集
澤田 健人(副代表理事)

制作
合同会社HIKOBAYU
Director / Filmmaker / Writer

助成
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